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経営講座の第113回目です。
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Question
副業・兼業の取扱い

当社は現在、正社員の兼業・副業を全面的に禁止しています。しかし
働き方改革の流れと今般の新型コ口ナウイルス感染症を考慮して`
当社でも正社員に副業・兼業を許可しようと思つています。注意点を
教えてください。

Answer
副業・兼業を全面的に禁止することは現在でも認められにくいといえ
ます。他方、兼業・副業を許す場合には注意点もありますので、解説
をご確認〈ださい。

1.副業・兼業に対する法律
副業や兼業については色々な形態があります。例えば

・他社の従業員になる
・他社の役員になる

といったものが今までの典型でした。しかし、現在は副業や兼業にも
様々なものがあり、

・YouTubeに動画を投稿して収益を得る
・いわゆるブログサイトで収入を得る
・フリ一ランスとして個人事業で収入を得る

など、会社に雇われない副業・兼業も増えてきています。

これらはいずれも「自社での労働以外で収入を得る」という点では
共通しています 。 しかし、その手段は異なっており、それに応じて
それぞれの法律的な意味合いも違ってきます。
もっとも、 どういった手段にしろ、 副業・兼業を全面的に禁止する
ことのできる法律はありません。それは、どんな個人にも「職業選択
の自由」があり、その中に「誰かに雇われつつ、他の仕事をする」こと
も含まれているからです。

したがって会社としては、副業・兼業の全てを禁止するのではなく、
企業運営に与える不利益を最小限にとどめるように、制度を整備
することとなります。

2. 副業・兼業が企業運営に与える影響
副業や兼業が企業運営に与える影響で最も深刻なものは、労働時問
の把握・管理です。会社には、通常、副業・兼業にどの程度の時問を
使つているのか、どの程度の負担がかかっているのかを調査する術
がありません。取り得る方法としては、従業員本人の自己申告が基本
ということになります。その場合、本人が正しく申告してくれなけれぱ労
働時間の把握ができません。
正社員の場合、自社でフル夕イム勤務をしているわけですから、そも
そも他で働くこと自体、長時間労働に陥る危険性を持つているといえ
ます。会社には従業員が長時聞労働によつて心身の健康を損なわない
ように、労働時問を把握・管理し、業務の変更等適切な調整を行う義務
があります〈安全配慮義務のひとつ〉。従業員が副業や兼業をしている
場合でもこの義務自体は無くなりません。そのため、仮に従業員に
何らかの兆候が見られた場合(例えぱ、集中力を欠いている、疲れた
様子である)、会社としては原因を調査したうえで、何らかの措置を取る
ということになります。副業や兼業を止めるかどうかは、実際上、本人の
意思次第です。そのため、会社は自社の業務を調整するということに
なり、割を食う形となつてしまいます。
また、企業秘密の漏えいにも気を付けなけれぱなりません。従業員
本人が意図していなくても、自社で学んだ内容や得たノウハウが流出
してしまう可能性があります。そういったものは「秘密」に含まれない
場合もありますが、そうだとしても自社にとって重要な内容を含んで
いることもあります。特に、同業他社での兼業は漏えいの危険性が
高く、かつ、自社ヘの影響も大きいため、可能な限り制限したい
ところです。
3. 副業・兼業のルール
以上を踏まえると、副業や兼業をする際には会社に届け出るという
ル一ルを設け、その内容によっては禁止や制限をするという運用が
望ましいと考えられます。
どこでどの程度、どういった内容で働いているかを把握することができ
れぱ、例えぱ定期的に話を聴くなど日常的な対応が可能です。また、
長時問労働となることが明確に想定される場合や自社の業務に影響
する場合(例えぱ他社の正社員となる場合)、同業他社ヘの就職など、
自社の企業運営の必要上無視できない影響があると判断できれぱ、
事前に副業・兼業を禁止したり制限したりすることができます。
他方、従業員本人のぺースで仕事ができる自営業的な働き方は、
自社業務への影響を理由に禁止や制限をすることは難しいと思われ
ます。企業秘密の漏えいにつながるような内容や、明らかな競業という
ことであれぱ話は別ですが、そう判断できる場合は事業を始めたぱかり
の段階ではあまり多くないと考えられます。そのため、この場合もやは
り、定期的に状況を確認することが重要といえます。
働き方改革では、副業・兼業を原則として認める方向に進んでいます
しかし、2で述べたような問題に加え、法律上も割増賃金の問題や雇用
保険の問題など、まだまだ整備が追い付いていない分野があります。
働き方が多様化し、稼ぐ手段も多様化しているため、それらを受け入れ
つつ、柔軟に対応してい〈ことが求められています。