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経営講座の第126回目です。
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Question
賃貸借契約書に必要な印紙

当社は新しく店舗を出そうと物件を探していました。不動産仲介業者にも
いくつかお世話になったのですが、結局、知り合いの会社が所有している
ビルの1室を借りることとなりました。
長年続く契約になることもあり、弁護士に依頼して契約書を作成してもら
ったのですが、この契約書に印紙は不要なのでしょうか。

Answer
原則として、建物の賃貸借契約書に印紙の貼付は不要です。詳細は解説
をご確認ください。
●解説
(1)印紙税とは
印紙税は、取引について作成した契約書や領収書等に関して納める税金
です。納税は、作成した契約書や領収書に収入印紙を貼り付ける方法で
行うため、「契約書や領収書には印紙を貼らなければならない」という理
解が広まっているようです。この理解は間違いではないのですが、印紙を
貼り付けなければならない(印紙税を収める対象となる)文書については
細かな定めがあり、すべての契約書等が印紙税の対象となるわけでは
ありません。ご質問にある不動産についての賃貸借契約書については、
その一部だけが印紙税の対象とされています。結論としては、「建物の
賃貸借契約書に印紙の貼付は不要」ということになりますが、その理由を
解説していきます。
(2)建物の賃貸借契約
まず、建物を借りる場合の法律的な仕組みについて説明します。 現行の
法制度上、土地とその上に建っている建物とは「別物」と扱われます。
そのため、土地と建物を別々に取引の対象とすることができます。例えば
建物が建っている土地だけを売却したり、反対に、建物だけを買ったりと
いうことが可能です。貸し借りの場合も同様で、土地の上に建物が建って
いる場合でも、土地・建物のどちらか一方だけを貸すことができます。借
りる側としては、他人の敷地の上に建っている建物だったとしても、建物
だけを借りることができるということです。ご質問の場合も、賃貸借契約
の目的物としては建物だけになっていると思われます。
(3)賃貸借契約書に印紙を貼付する場合
賃貸借契約の目的物が建物のみだとすれば、その契約のために作成
した契約書も、賃貸するのは建物だけという内容になっているはずです。
不動産取引については、印紙税法上、「不動産の譲渡に関する契約書」
と「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」が課税
の対象とされています。
つまり、譲渡(売買など)については取引の目的物が土地でも建物でも、
契約書を作成すればその契約書には印紙を貼付することとなります
(ただし取引額によっては印紙が不要となる場合があります)。 一方、
譲渡するのではなく貸し借りの場合は、土地を目的とした取引だけが
印紙税の対象となっています。 したがって、ご質問のように、土地を
目的とせず建物だけを借りる場合、その契約書に は印紙の貼付は
不要ということになります。
(4)建物の賃貸借契約書に土地の情報も記載されている場合
以上が基本的な考え方ですが、実際の契約書には、建物の情報だけで
なくその敷地の情報も記載されていることがあります。例えば、建物の
所在地は敷地の所在地でもありますし、建物賃借人が使える範囲を示す
ために敷地の面積が記載される場合もあります。これらは、建物の
賃貸借契約にあたって必要な情報であるために記載されたものですから
これらの記載があるからといって「土地も借りている(土地についても
賃貸借契約が成立している)」とは判断されないことが基本です。したが
って、賃貸借契約の目的物が建物だけなのであればば、その契約に
必要な土地の情報が記載されていたとしても、やはり印紙の貼付は
不要ということになります。
なお、契約書の記載の仕方によっては、土地の賃貸借も含まれていると
判断されることがないわけではありません。ご質問の場合、弁護士に
作成を依頼しているということで問題はないと思われますが、作成した
弁護士に印紙の要否を尋ねることも一案です。
(5)敷金のやり取り
賃貸借契約にあたっては、借主が貸主に対して敷金を差し入れることが
あります。敷金は、賃料の未払等に備えたいわば「担保」だと考えられて
います。
担保のやり取り一般が印紙税の対象となっているわけではありませんが
敷金を預かったことを証明する「預かり証」のような文書は、「売上代金
以外の金銭の受取書」として印紙税の対象となります。 このことは、
「預かり証」という名称でなくても、「敷金を受け取ったこと」を証明
する文書であれば同様です。そのため、例えば、建物の賃貸借契約書
の中に、「敷金を受け取ったこと」を証明するような文言が含まれていれ
ば、その部分については印紙税の対象となり ます。ご質問の場合も、
貴社が敷金を差し入れ、貸主がそれを受け取った旨を証明する文書を
作成するのであれば、その文書には印紙を貼付しなければなりません。
これは確かにコストですが、「売上代金以外の金銭の受取書」に貼付す
る印紙の額は 200円と非常に低額です。対して、長年続く賃貸借契約
では、敷金を漏れなく貸主に渡していること(及びその額)を形に残して
おくことは非常に重要です。そのため、敷金のやり取りがあるのであれ
ば、証明のための文書を作成されることが望ましいといえます。 こち
らの場合も、契約書の作成を依頼した弁護士に尋ねてみることもご検討
ください。