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経営講座の第128回目です。
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Question
長時間労働のリスク

当社は製造業なのですが、人員が足りておらず、従業員の労働時間が
非常に長くなっています。特に現場のスタッフが長時間労働となっており
一番多い者だと、1か月に80時間余りの残業時間となっています。
法令の残業の手続きはすべて守り、割増賃金の支払いもしっかりと行っ
ています。その点で従業員とトラブルになったり、行政から指摘を受けた
ことはありません。 しかし、従業員の健康を考えると早急に改善が必要
だと考えています。そのためにも、現状で考えられる法律上のリスクを
教えてください。

Answer
長時間労働は「働き方改革」でも是正が目指されており、それに伴って
法改正も行われた課題です。それだけでなく、従業員に実際の健康被害
が生じた場合には会社の責任が厳しく問われることもあるため、注意
しなければなりません。

●解説
(1)長時間労働の法的な規制 長時間労働は日本全体の課題であり、
「働き方改革」でもその是正が目指されています。
法律上も、時間外労働や休日労働は原則的に禁止されています。その
ため、いわゆる「36協定」の締結という特別な手続きを踏んだ場合や
緊急時といった場面でなければ、時間外労働・休日労働を行わせること
はできなくなっています。
36協定には1か月及び1年という単位で、時間外労働等をさせることの
できる時間数を記載しなければなりません。さらに、その時間数には
次のような上限が設けられています。なお、「特別の事情がある場合」
として1か月45時間を超える時間外労働をさせられる回数は、年に
6回(6か月)までとされています。

通常の場合 1か月・・・45時間 1年・・・360時間
特別の事情がある場合 1か月・・・100時間未満 (休日労働を含む)
           1年・・・720時間

(2)実労働時間の規制
以上のように、労働基準法は、36協定に定めることのできる時間外労働
の時間数に制限を設けることで、長時間労働を未然に防ごうとしていま
す。加えて、36協定の内容をどのように定めたかとは関係なく、実際に
労働させることので きる時間にも下記の規制があります。これは、時間
外労働と休日労働の時間数を合計した時間数の上限ということになり
ます。
・1か月100時間未満
・2か月〜6か月のいずれの平均も80時間以内

(3)従業員の健康リスク
ここまでみてきたところに従えば、ご質問の残業時間(月80時間)は、法律
の上限を越えかねない時間数です。特に、時間外労働だけではなく、休日
労働の時間数もカウントしなければならない場合があるため、確認する
必要があるでしょう。
また、法律の範囲内だったとしても、ご懸念のとおり、従業員に健康被害
が出る可能性を考えなければならない状態といえます。
「月80時間」という残業時間数は、いわゆる「過労死ライン」として労災
認定などで用い られているものです。そのため、仮に、従業員に健康
被害が生じてしまった場合、労災として扱われる可能性が高いといえま
す。もっとも、労災として認定されることが会社にとってマイナスに作用
するわけではありません。むしろ、労災保険はそのような場合に備えた
保険であるため、積極的な活用が望 まれます。
しかし、長時間労働による健康被害については、労災保険では補償され
ない損害(例えば慰謝料)について、従業員から民事の請求を受けるケース
が多くあります。会社には、法律上、従業員の生命・身体の安全を確保
する義務(安全配慮義務)があるため、 その義務に違反したことを根拠と
する請求です。
安全配慮義務の内容には、例えば、作業用機械の整備・点検等の物理的
な配慮はもちろんのこと、長時間労働によって心身の健康が損なわれ
ないようにすることも含まれています。近年では、過労死が社会的に大き
な問題となっていたり、職場におけるメンタルヘルスについての関心の
高まりなどもあり、長時間労働を原因とする従業員の不調には、 会社の
責任が厳しく問われる傾向にあります。 特に、労災認定がされた後に
裁判を起こされるケースでは、会社が民事上の責任を回避することが
難しくなっています。結果として、労働者には労災保険から一定の補償が
な されているにも関わらず、会社が高額な賠償をしなければならないこ
ともあります。
ここまで、長時間労働に関する法律上のリスクを解説してきました。
従業員に健康被害 が生じると、人手不足がさらに深刻となってしまい
ます。他の従業員の負担も増えることになり、長時間労働を解消する
ことがさらに難しくもなるため、早期の改善が求められるといえます。