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経営講座の第135回目です。
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Question
いわゆる会社都合退職

●質問
先日、当社の従業員(正社員)が1人、退職を申し出てきました。
理由を確認すると、残業が多く、私生活とのバランスが取れないから
ということでした。会社としてはそこまで残業が多いとは考えておらず
退職者が出ると人員不足も懸念されるため、「残ってほしい」と打診
しました。しかし、本人の意思は変わらなかったため、退職を了承
しました。これ自体は仕方のないことだと思うのですが、本人からは
さらに「会社都合で退職したことにしてほしい」と要望がありました。
断ったのですが、そもそも会社都合かどうかは会社の判断で左右
できるものなのでしょうか。法律の仕組みを教えてください。
いわゆる会社都合退職となるかどうかはハローワークの判断であり
会社が決めることはできません。
詳細は解説をご確認ください。
Answer
(1)会社都合退職とは
従業員の退職について、「会社都合退職」と「自己都合退職」という
区別を聞くことがあるかもしれません。インターネット上にも、両者の
違い等を解説する記事が多く見られます。しかし、この両者は法律
上の用語ではなく、明確な定義があるわけではありません。ただ、
雇用保険上の「特定受給資格者」と「それ以外」の区別に対応する
形で、前者のことを会社都合退職、後者のことを自己都合退職と
呼んでいることが多いようです。特定受給資格者に該当すると、
いわゆる「失業保険」が優遇されることになります。そのため、退職
する従業員にとっては特定受給資格者に該当するかどうかが大き
な意味を持ちます。 このような事情から、ご質問にある従業員の
方も「会社都合にしてほしい」と申し出たものと考えられます。そこで
、以下では、特定受給資格者について解説していきます。なお、
失業保険が優遇される可能性がある別の場合として、特定理由
離職者への該当というものもありますが、この記事では割愛します。
(2)失業保険の意味
失業保険という言葉も俗称ですが、「会社を辞めたあと、次の就職
先が決まるまでの間に、雇用保険から給付される金銭」を指して
使われています。このような意味を持つ失業保険は、文字通り、
失業した際の公的なセーフティーネットとして用意された制度です。
そのため、支給される金額も法令で決められています。
(3)失業保険の計算
失業保険の計算をごく簡単に示すと、1日分の支給額(基本手当
日額) ×失業状態にあった日数となります。
ただし、支給される日数には一定の上限があり、その日数を「所定
給付日数」と呼びます。つまり、所定給付日数を超えて支給はされ
ないということです。したがって、基本手当日額×所定給付日数が
支給される失業保険の最大額ということになります。
(4)特定受給資格者の優遇
特定受給資格者に該当すると、この所定給付日数が優遇されます。
例えば、所定給付日数は雇用保険に加入していた期間と年齢で決ま
るのですが、どの区分においても、特定受給資格者は日数が多く
なっています。つまり、特定受給資格者に該当すると、失業保険を
長い間受けられるようになるということです。 さらに、失業保険は
ハローワークで受給のための手続きを行なってから7日間は支給
されません。これはどの場合でも同じなのですが、原則として、そこ
からさらに2か月間受給ができないことになっています。しかし、
特定受給資格者に該当すれば、この制限はありません。7日間が
経過した後からすぐに支給の対象となります。 もっとも、失業保険
は、ハローワークに「失業状態にある」ことを認定してもらってから
支払 われる、いわば後払いの制度です。この認定は4週間ごとに
行われるため、特定受給資格者に該当しても、実際に支払われる
のは約1か月後ということになります。それでも、通常の場合は
約3か月待たなければ実際の支払いに至らないわけですから、
特定受給資格者に該当することのメリットは大きいといえます。
(5)特定受給資格者に該当するか否かの判定
特定受給資格者に該当するかどうかは、失業保険を所管している
ハローワークが判断します。しかも、該当する理由は倒産や解雇
など細かく決められており、それを基に判断されることになります。
したがって、会社や従業員本人が特定受給資格者か否かを決める
ことはできません。
もっとも、ハローワークは、基本的に、会社と従業員からの届出
内容に基づいて離職理由を判断します。具体的には、ハローワーク
に提出される離職票の記載を用います。そのた め、例えば、会社と
従業員が結託し、本当は解雇ではないにも関わらず、「解雇による
離職である」旨を離職票に記載すると、特定受給資格者と判断され
る可能性があります。
この意味では、特定受給資格者に該当するかどうかを会社と従業員
が左右できるわけですが、例のような手法は当然、失業保険の不正
受給であり、場合によっては詐欺等の刑事罰に問われることもあり
ます。従業員の申し出等に応じることなく、離職票は事実に基づいて
記載することが求められます。 なお、解雇や倒産ではなく自主的な
退職であっても、長時間労働などが理由で離職した場合等、特定
受給資格者に該当することがあります。特定受給資格者に該当
する離職者を出すと、助成金によっては受けられなくなる可能性が
あるため、注意が必要です。もちろん、助成金への影響を懸念して
離職について事実と異なる届け出をすることも禁止されています。
あくまでも、事実に基づいた届け出をするよう、心がけることが
重要です。