個人情報保護方針


 

経営講座の第130回目です。
                            経営講座バックナンバー
Question
年次有給休暇の買取り

●質問
ある従業員から退職の申し出がありました。退職自体は仕方のないこと
だと思っているのですが、退職日までの出勤日すべてについて、年次
有給休暇取得の申請がありました。このときは認めたのですが、やはり
引き継ぎ等に支障が出てしまいました。
今後は同様のことが起こらないようにしたいと思っています。例えば、
退職に際して年次有給休暇の取得も申請されたとき、休暇を何日分か
買い取って、代わりに出勤してもらうことは可能でしょうか。そのほかに
も対応方法があれば教えてください。

Answer
退職によって使えなくなってしまう年次有給休暇は買い取っても構わない
とされていますが、注意点もあります。詳細は解説をご確認ください。
●解説
(1)年次有給休暇の趣旨と買取り
年次有給休暇(「年休」と略します)は「賃金の支払いが保障された休暇」
であり、仕事を実際に休むことがその趣旨です。 年休を買い取るという
ことは、「お金を払う代わりに実際には休ませない」ということであり、
年休の趣旨に沿いません。そのため、年休を買い取ることは原則禁止
とされています。
(2)年次有給休暇の買取りができる場合
「年休を買い取ると実際に休むことができなくなる」という買取り禁止の
理由は、使うことができない年休には関係がありません。例えば、年休
は前年に発生した分に限って翌年に繰り越すことができます。言い換え
れば、2年より前に発生した年休は消滅して使えなくなってしまうという
ことです。 具体例を挙げると、いわゆるフルタイムの従業員であれば、
入社後6か月で10日、1年半後に11日、2年半後に12日の年休が発生
します。しかし、最初の10日のうち取得できなかった分は、2年半後に
12日の年休が発生するタイミングで消えてしまいます。結果、2年半後
の時点では、前年に発生した11日のみが繰り越され、合計23日の
年休を持つことに なります。この例では、2年半後の時点で消えてしま
う分(10日から実際に取得した日数を引いた残り)については、その後
使うことができないため買取りが許されます。
また、退職時に持っていた年休も買い取ることができるとされています。
年休は退職すると消滅して使えなくなってしまうためです。ご質問の場合
、このことを応用して対処することができます。例えば、退職の申し出を
されてから実際の退職日まで2週間あり、その間に出勤日が10日あると
します。このケースで従業員にも10日の年休が残っているとすると、この
従業員は年休を全て消化することで、退職日まで1日も出勤しないことに
なります。 この状況で、例えば3日分の年休を買い取れば、3日間出勤
して引き継ぎ等を行わせることができます。
(3)買取りの注意点
ただし、法律上禁止されていない場合でも、年休の買取りは従業員との
合意がなければ行えません。上の例でいえば会社が3日分の買取りを
打診しても、従業員がそれに応じなければ出勤してもらうことはできま
せん。 また、いくらで買い取るか(金額)についても従業員との合意で
決めることとなります。「年 休を取得した際と同額としなければなら
ない」といった決まりはないため、それより低い金額でも、従業員が
合意すれば買い取ることができます。ただ、反対に、ご質問のように
会社側が出勤を望んでおり、そのために買い取るという状況の場合、
年休を取得した際の賃金額より高くなってしまう可能性もあります。
(4)買取り以外の対応方法
金額がいくらになるにせよ、出勤してもらうために余計な出費をすること
に変わりはなく、 あまり望ましいことではありません。 買取り以外で
効果的な方法は、退職の申し出をできる限り早くさせる、できれば会社
と話し合って退職日を決めるというものです。そのためには、まず、
就業規則に「退職の場合は 1か月前までに申し出ること」といった旨を
定めておきます。ただ、これに違反したからといって強制的に退職日
を申し出から1か月先に変更することはできません。退職自体は、申し
出から2週間経過すればできてしまいます。そのため、この規定の
主な目的は、「早めに退職を知らせてもらう」という意識を従業員に
もってもらうことにあります。そのうえで、在職中に良好な関係が築け
ていれば、引き継ぎが終わってから年休消化に入ってもらう
スケジュールを、話し合いで決めることもできるでしょう。 また、
「退職時は漏れなく引き継ぎを行う」旨を就業規則に定め、その
違反に対する懲戒処分も規定していれば、引き継ぎをせずに退職する
従業員に対して始末書等の懲戒処分を行うことができます。もっとも、
退職する従業員に対して懲戒処分そのものの効果は大きくないでしょう
現実的な姿勢としては、引き継ぎをしないことが懲戒処分の対象となる
ことを伝えたうえ、遺漏なく引き継ぎをするよう指導し、従業員が考えを
改めることを期待するといったものになるでしょう。 さらに、通常の
出勤日ではなく、休日に出勤を命じるという方法もあります。年休は
基本的に出勤日に取るものであり、出勤日が全て年休となる場合でも
休日出勤は命じることができます。ただ、この方法でも、(業務命令違反
ではありますが)休日出勤を拒否される可能性があります。また、休日
出勤はイレギュラーな出勤ですから、命じる業務上の必要性があったか
否かをめぐりトラブルになる危険性が生じます。加えて、引き継ぎ業務
が1人ではできない場合、関係する他の従業員にも休日出勤を命じる
ことになるなど、現実的な問題も あります。使い勝手のいい方法では
ないため、十分注意が必要です。