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経営講座の第134回目です。
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Question
季節性インフルエンザと休業手当

●質問
昨年は全国的にインフルエンザが流行せず、従業員の中でインフル
エンザにかかった 者はいませんでした。しかし、例年、毎年数名が
インフルエンザにかかって欠勤していま す。その場合、休業手当の
支払いはしていないのですが、インターネットの記事で、「季節 性
インフルエンザでの休業には休業手当を支払わなければならない」
とされているものを よく見かけます。 法律上のルールがどうなって
いるのか教えてください。

Answer
季節性インフルエンザにかかった場合に特有のルールはなく、休業
手当の支払いが必5 要か否かはケースバイケースです。
●解説
(1)休業手当とは 労働基準法26条に休業手当についての規定があり、
そこでは、「使用者の責に帰すべ き事由による休業の場合に」平均
賃金の6割以上を支払わなければならない旨が定めら れています。
なお、ここでの休業というのは長期の休みに限らず、1日の休みでも
該当しま す。 休業手当のこのルールは、有り体に言えば、「会社の
都合で従業員を休ませた場合、平 均賃金の6割は少なくとも支払わ
なければならない」ということです。
(2)従業員の病気と休業手当の関係 定年まで雇う予定の正社員は
もちろんのこと、期間を決めて雇用するアルバイトのよう な従業員でも
、病気での欠勤はまま起こります。人事管理上避けて通れない事態と
いうわ けですが、通常、病気による欠勤に対して休業手当を支払う
必要はありません。一般的な 風邪や体調不良といった状態に対しては
会社が指示して休ませるというのではなく、従 業員が自分の判断で休ん
でいると考えられる場合がほとんどだからです。会社の指示で はな
く自己判断で欠勤するのであれば、それは「会社の都合で従業員を
休ませた」わけで はありません。つまり、「この体調では仕事ができな
い」と従業員が判断し、自主的に休み を申し出ているということです。
ただ、病気の場合に会社の指示で休ませることも考えられ、その典型例
が、「社内での 感染防止のために自宅待機を命じる」場合です。新型
コロナウイルスとの関係で休業手 当の支払いが議論されていましたが
季節性インフルエンザでも検討が必要です。
(3)季節性インフルエンザの法律上の取り扱い 新型コロナウイルスや、
インフルエンザでもいわゆる新型インフルエンザは、感染症法と いう
法律により、罹患した人に対して行政が就業制限を課すことができる
ようになっていま す。つまり、これらにかかった場合には、行政から
「働かないように」という指示が出されると いうことです。 この行政
からの指示に従って従業員を休ませた場合、会社の都合とはいえ
ません。行政 の指示に従ったのみだからです。そのため、休業手当
の支払いは基本的に不要と考えられ ています。しかし、季節性
インフルエンザは感染症法で指定された感染症ではありません。
したがって、かかった場合の欠勤は、従業員の自主的な判断か
会社の指示かどちらかによ るということになります。そして、後者で
あれば、会社は休業手当を支払うことになります。
(4)休業手当の支払いが必要となる可能性が高いケース このどちらに
なるかは、ケースバイケースと言わざるを得ません。特に、インフル
エンザの 症状(高熱や関節痛など)が現れている間と、症状が治ってか
らとでは事情が異なります。
インフルエンザの症状が現れている間は、まともに仕事をこなせる状態
とは言い難いで しょう。そのため、その間の欠勤は、従業員が自主的
な判断で休んだと判断されることが多 いと考えられます。また、そもそ
も、その状態の従業員から「出勤したい」と申し出られること もあまり
ないと思われます。 したがって、季節性インフルエンザに関係して主に
問題となるのは、症状が治まった後数 日間、感染防止のために休む
場合といえます。季節性インフルエンザの場合、発症から5日 間程度
は他者への感染が懸念されるとされており、それにならって解熱後2日
3日間程度、 従業員には休んでもらう会社も多くあります。ただ、
インフルエンザには特効薬があるため、 服用すれば1日~2日で解熱
することがほとんどです。そのときには頭痛や関節痛といった 他の
症状も治まり、仕事にもほぼ支障がない状態となっているでしょう。
そのため、例えば、「季節性インフルエンザにかかった場合、解熱後
3日間は出勤しないこ と」といったルールを設けている場合に、それに
従って従業員が休んだとすると、「従業員本 人は仕事ができる状態
に戻っているが、感染防止のため会社が休むよう指示した」と判断
される可能性が高いといえます。つまり、会社の都合で休ませたと
いうことになり、休業手当の支払いが必要ということです。これは、
あらかじめルールを設けている場合だけでなく、 「インフルエンザに
かかった従業員から、熱が下がったので出勤して せがあった場合
に、休むよう指示をしたケースでも同様と考えられます。ご質問の中
にある インターネット上の記事も、これらのケースを主に想定した
ものと考えられます。
(5)まとめ
ただ、従業員が自主的に休んだのか、それとも会社の指示で休んだの
か、実際の区別は あいまいです。季節性インフルエンザで欠勤する
場合、従業員から何らかの連絡があること が通常でしょうから、罹患
の報告と病状の確認といったちょっとしたやり取りが生じます。そ こで
従業員が自分から欠勤を申し出たか、会社から「休んだ方がいい」と
働きかけたのか は、会話の流れにも左右される微妙なものです。また
、会社に解熱後一定期間出社を制限 するルールがあるとしても、その
ルールが就業規則等に明記されていないものであれば、 強制とも言い
難い部分があります。そうなると、会社の指示なのか従業員が自主的
に「常識 的な対応をした」のか、判定は難しいでしょう。このように、
休業手当の支払いの要否は ケースバイケースの困難な判断であり、
迷った場合には支払うことが無難といえます。