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経営講座の第138回目です。
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Question
メンタル不調からの復職

●質問
精神的に不調となり、3か月ほど休職している従業員がいます。 休職
期間の満了が近づいているのですが、 復職させるか否かの判断を
どのように行えばいいのか悩んでいます。 精神疾患に関する医師の
診断や判断は本人の意向に左右されやすいという話も聞きま す。
会社としてどのように行動するべきか、気を付ける点があれば教えて
ください。なお、従業員本人の認識も、休職時の主治医の診断も、
仕事上の負荷が精神疾患の主な原因ではないということになっています。

Answer
復職の判断には医師の見解をある程度参考にせざるを得ませんが、
判断はあくまでも 会社の基準で行います。その際に注意すべき点が
あるため、解説をご確認ください。

解説
(1)休職とは
休職とは、従業員としての立場を保ったまま、仕事に従事することを
免除・禁止するもの です。数日という単位ではなく、一般的には長期
的なものを指します。 休職となる原因は様々ありますが、 典型的な
ものは、私傷病(業務が原因ではない病気)により仕事ができない状態
となるものです。仕事ができない状態であるため、法律的には解雇する
ことも可能なケースです。 しかし、実際に働く中でケガや病気によって
一定期間働けなくなることは一般的にあることです。特に、定年までの
長期間勤務する正社員のケースでは、ケガや病気がないと想定する
ことの方がむしろ不合理ともいえます。
このことを踏まえ、多くの会社では私傷病による休職を認めています。
つまり、休職制度の目的は、一定期間解雇を猶予して従業員の雇用を
保障するとともに、人材の喪失を防ぐことにあります。 休職制度自体を
直接規制する法律はありませんが、解雇が有効か無効かを判断する
際には、休職制度の利用の有無を考慮することが裁判実務上も行われ
ています。つまり、 私傷病が理由で働けない状態となったとしても、
一定期間は雇用を持することが必要であり、それをしないまま行われ
た解雇は法的に無効とされやすいということです。
もちろん、休職制度の趣旨が解雇猶予にある以上、 どの程度様子を
見るかは基本的に会社が決める事柄です。 言い換えれば、従業員が
休職できる期間 (休職期間) を会社が決められるということです。そして
休職期間が満了しても私傷病が回復せず、仕事に復帰できる状態に
なっていない場合、自然退職として扱われることが一般的です。
(2) メンタル不調と復職の可否の判断
私傷病から回復し、仕事に復帰することを「復職」と呼びます。 復職は
「仕事に復帰できるかどうか」の判断であり、会社が行います。
ただ、 その際に問題となるのが、私傷病が回復したのか、 つまり治癒
したといえるのかど うかです。 この判断には医学的な知見が不可欠
ですが、 骨折等の外傷であれば、比較的判断しやすいケースが多いと
思われます。 例えば、レントゲンなどの客観的な資料があり、 それを
もとに当初の「全治◯週間」という診断が行われ、かつ、その後も目に
見える形で経過を追えることが多いでしょう。 しかし、メンタル不調の
場合、そのような客観的な資料があ る場合は少なく、本人の感じ方と
いった主観的な要素を踏まえて診断や治療をせざるを得ない面があり
ます。そのため、ご質問にあるように、主治医の診断を鵜呑みにでき
ないという難しさが生じるのです。
(3) 復職の判断にあたって注意すべき点
もっとも、そのような事情があるにせよ、 復職の判断にあたっては医師
と連携しないわけ にはいきません。 医学の専門知識がないと判断が
難しいという点はもちろんのこと、法律の面から見ても、医師の見解を
無視した判断には合理性が認められない可能性があります。 結果的
に医師の見解と異なる判断となることは問題ありませんが、「信用でき
ないから」と最初から考慮しないことはリスクが高いといえます。
このことを踏まえると、復職の判断にあたっては、医師の判断をどの
程度・どのように考慮するかが1つのポイントになります。その際、
医師に仕事の内容を踏まえた診断・見解の提示を求めることが有効
な手段となるでしょう。可能であれば、従業員本人だけでなく、会社側の
担当者も主治医と面談することをおすす めします。仕事内容など会社
の事情を直接伝えることで、主治医の判断も正確なものとなります。
その際には、
1 業務内容を伝えること、2復職した場合の悪化の可能性を尋ねる、
3復職した場合に会社として配慮すべき事項を聞く、といったことが重要
です。なお、本人が会社の担当者による面談を拒否した場合には、
病院としても面談に応じないことが多いと思われます。 そのような場合
でも、1~3を主治医に伝えるよう本人に促すなど、可能な限りの対応を
することが重要です。
(4) 休職規定の整備
以上が、復職判断にあたってのポイントですが、休職制度の工夫も検討
すべきです。 例えば、精神疾患はいったん治癒した場合でも再発する
可能性があります。その際、「再 発でも休職期間は初めからカウント
する」というルールの場合、いつまでも休職が続くことに なりかねませ
ん。 再発の場合に備え、「同一あるいは類似事由による休職の場合、
休職期間を通算する」旨を定めておくことが効果的です。
また、休職期間中に病状を悪化させるような行動をとってしまう従業員
も少なからず存在します。 メンタル不調の場合もそういった可能性は
あるため、休職中は療養に専念すべき旨を定めることも検討すべき
でしょう。さらに、先に述べた医師との連携を踏まえれば、復職判断
にあたって必要となる会社の行動に協力するということも、定めて
おくとよいでしょう。 例えば、「診断書の提出を求めた場合には応じる
こと」などです。病気に関する情報はセンシティブなものであり、従業員
が協力を拒否した場合の実効性が高いとはいえませんが、就業規則
に定めて周知しておくことによる従業員への意識付けの効果は期待
できるでしょう。