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経営講座の第139回目です。
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Question
派遣を受け入れる際の注意点

●質問
従業員の退職が重なってしまい、人手不足の部署が出てきました。
すぐに採用できる見込みもないため、派遣の利用も検討しています。
ただ、派遣を利用したことがないため、制度やルールの内容を理解
できていません。詳細は派遣会社が教えてくれるとは聞くのですが、
本当に派遣を利用するかどうかも含め検討 段階であるため、 基本的
な仕組みを知りたいと思っています。
派遣を受け入れる際に最低限把握しておくべき内容を教えてください。

Answer
派遣に関する法的なルールは近年複雑化しています。その多くは
派遣元に関するものですが、派遣先にも一定の規制が及んでいる
ため、解説します。

解説
(1) 労働者派遣の仕組み
派遣は、労働者派遣の略称であり、派遣業を行う事業者に雇われて
いる 「労働者」が、他の会社に「派遣される」という関係です。
派遣する側 (派遣事業者) のことを「派遣元」、派遣される側を
「派遣先」、派遣される労働者を「派遣労働者」というため、この
記事でもそ のように統一します。派遣労働者は派遣元の従業員で
あり、派遣元が基本的な雇用の責任を負っています。最も代表的
なものは賃金の支払いであり、派遣労働者の賃金は派遣元が
支払います。言い換えると、派遣先は派遣労働者に賃金を支払
いません。派遣先が支払うのは派遣元に対する派遣料です。
派遣料は、派遣というサービスを利用する対価であり、賃金とは
全く異なります。賃金を支払うという労働関係に特徴的な義務を
果たさないことから派遣先は、派遣労働者に対して雇用上の責任
を原則として負わないということになります。
もっとも、派遣労働者に対して実際に仕事の指示を出すのは派遣先
です。そのため、例えば労働時間の把握など、実際に働くにあたって
必要となる管理は派遣先が行います。派遣元は、派遣先が把握した
労働時間を教えてもらい、それに沿って賃金計算をするというのが
派遣の仕組みです。 この仕組みを成り立たせるため、派遣先は、
派遣元に1か月に1回以上、労働時間等を報告する義務を負っています。
以上のように、派遣には、基本的な雇用の責任を負う会社と実際に
仕事を指示する会 社が異なっているという特徴があります。このよう
な状態は 「間接雇用」と呼ばれ、自社で採用して仕事を指示する
通常の形態に比べ、雇用が簡単に終了したり賃金水準が低かった
りと、種々の問題が指摘されています。この問題に対処するため、
派遣に特有のルールが定められています。
(2) 派遣法の概要
派遣に特有のルールは、派遣法という法律にまとめられています。
派遣法の主な目的は、1.派遣元を規制すること、2.派遣労働者を
保護することの2つです。派遣先の規制はこの2つの目的を達成する
ために間接的に行われるという立て付けです。
そうは言っても、細かく見れば、派遣先が行わなければならない内容
も派遣法にはある程度定められています。重要なものとして、「派遣先
責任者の選任」と「派遣先管理台帳の作成・保管」が挙げられます。
派遣先責任者は、自社で受け入れている派遣労働者の管理を行う者
のことです。例えば、派遣元との連絡調整や、派遣労働者からの苦情
の処理といった職務です。派遣を受け入れる場合、基本的には派遣先
責任者を選んでおかなければなりません。派遣先責任者になるための
資格は特に定められていませんが、職務内容を踏まえると、人事労務
に携わっている従業員を選ぶことが望ましいでしょう。
次に、派遣先管理台帳ですが、派遣先管理台帳には派遣労働者の
就労実態を記録します。 先の労働時間も、派遣先管理台帳に記載
する項目の1つです。そのことからも分かる通り、派遣先管理台帳に
は、派遣元に派遣労働者の就労実態を知らせるツールとしての役割
があります。このように、派遣先は派遣元と連携しつつ、派遣労働者を
受け入れて仕事をしてもらうこと になります。
(3) 派遣を受け入れる際の注意点
派遣を受け入れる際に注意しなければならない点として、まず、「派遣
労働者を受け入れられる期間は原則3年間」というルールが挙げら
れます。 受け入れる派遣労働者が誰であるかに関わらず、その事業所
で最初に派遣を受け入れてから3年間しか派遣を受け入れることは
できません。 ただし、この期間は、自社の従業員の代表の意見を
聞くことで延長することができます。延長できる回数に制限はない
ので、この期間制限を事実上無視することは可能です。しかし、
これとは別の期間制限として、「同じ派遣労働者を同じ組織に受け
入れられる期間は3年まで」というルールもあります。ここでの組織とは
、「課」程度の規模が想定されています。例えば、Aという派遣労働者を
α課で受け入れて3年経過したとします。この 場合、Aをα課で受け
入れ続けることはできず、Aを受け入れ続けたいのであれば別の課で
受け入れる必要があります。また、α課で引き続き派遣労働者を受け
入れたいということであれば、Aではない別の人を派遣してもらわな
ければなりません。次に、派遣先は、派遣元から派遣されてくる人を
選べないという点にも注意しておく必要があります。派遣はあくまで
他社(派遣元) から従業員を送ってもらうだけのサービスであり、どの
ような人材が送られてくるかは、サービスの提供側である派遣元
次第です。 そのため、派遣先は、例えば面接など、受け入れるか
どうかの選考を行ってはいけないことになってい ます。もっとも、
これは努力義務として設定されているため、絶対的に禁止されて
いるわけではありません。 実際にも、「顔合わせ」というような形で、
就労開始前に派遣労働者と面談する機会が設けられることもまま
あります。受け入れについては、派遣元と連携しつつ進めていくと
いうのが一般的でしょう。ご質問にあるように、派遣は臨時的な労働
力の補充手段として魅力があります。ここまで述べてきたことや、 派
遣料が割高である点などを考慮しつつ利用の判断をすることが
肝要 です。